2019年11月21日
インターナショナルスクール保育・幼稚部の年間授業料は、150万から250万の間だ。保育無償化で対象となるインターナショナルスクール保育・幼稚部に通うと保護者は、年間約45万円が給付される。実質的な負担は約100万から200万に下がる。小学校の英語科目化など受験制度の変化も感じ取った保護者が「英語で探究的に学ぶ」インターナショナルスクールの保育・幼稚部を選ぶケースが増えている。 保育無償化の新年度となる2020年4月。全国的にインターナショナルスクールは、開園ラッシュを迎える。令和のインターナショナルスクールブームの号砲となりそうだ。
大学の英語入試改革で、民間英語試験が行き詰まりを見せるなかで、思わぬところで英語教育、国際教育ニーズが吹き上がった。
それが保育無償化による「英語で探究的に学ぶインターナショナルスクール人気」だ。
編集部注記:主に英語で学ぶ乳幼児教育施設の名称には、インターナショナルスクール、プリスクール、キンダーガーデンなど多様だが本記事では「インターナショナルスクール」と表記する。
▼ 保育無償化の恩恵を受けた保護者がインターナショナルスクールの保育・幼稚部を選ぶことで今後、英語教育、国際教育改革の土台となる可能性がある。
政府が進めた「待機児童」解消のための策は、予想もつかなかった流れを生み出した。
それは、保育無償化の対象施設に、認可外保育施設が含まれることで英語で学ぶインターナショナルスクールが対象となったことだ。
▼ 関西を中心に全国に21園を展開するキンダーキッズ。シンガポール、カナダ、ハワイなど海外にも進出する日本式インターナショナルプリスクールグループだ。
2020年4月に堂島校、夕陽丘校(天王寺)の2園を同時開園する。
【全国に展開する英語保育園(プリスクール)】キンダーキッズ インターナショナルスクール
https://www.kinderkids.com/全国に展開する英語保育園(プリスクール)。全校共通のオリジナルカリキュラムで日本語や受験、卒園後のクラスもあり
令和元年に導入された「保育無償化」で「インターナショナルスクール」が保護者のグローバル教育ニーズを引き受けながら開園ラッシュを迎える。
▼ アオバジャパン・インターナショナルスクールグループは、バイリンガルスクールとして国際バカロレアを軸に探究的な幼児園を展開する。三鷹キャンパスに続き、2020年4月には中野キャンパスが開園する。
Aoba Japan Bilingual Preschool
https://aoba-bilingual.jp/新宿区高田馬場、港区芝浦、中央区勝どきにある1歳から6歳を対象として国際バカロレア校が開設するバイリンガルプリスクール。英語と日本語で国際感覚と考える力を育む探究型学習を実施します。延長保育、アフタースクール、サタデースクールもあります。
国内では、これまで第一の幼児教育施設として幼稚園があった。
そこに第二として保育園、そして、両者の良さを導き出す「ことも園」が仕組みとして作られた。
今回の保育無償化は、認可外保育施設で運営される多くのインターナショナルスクールも対象園となった。
編集部による独自統計によると現在、国内で約6万人が保育・幼稚部のインターナショナルスクールに在園している。
インターナショナルスクールは、明治の開国とともに主に東京、横浜、神戸など外国人駐在員が多い地域を中心に増加してきた。
1990年代以降、留学世代が親となり、インターナショナルスクールは従来の外国人駐在員、帰国生から日本人の入学希望者が増えた。
2000年代以降、インターナショナルスクールブームは、早期英語教育、国際教育として、その勢いを増し、4大都市圏だけではなく、日本全国へと飛び火していった。
▼ 東京郊外の八王子市にある東京ウエストインターナショナルスクールも幼稚部に2歳児クラスを増設。小学部、中学部の内部進学があるインターナショナルスクールとして保育無償化の対象スクールでもある。
Tokyo West International School
https://www.tokyowest.jp/八王子,国立,立川,町田,多摩センターのインターナショナルスクール 東京ウエストインターナショナルスクール
全国にインターナショナルスクールブームが波及した背景には、外資系企業による日本企業の買収、日本企業のグローバル採用、英語教育の低学年化、留学生の増加、インバウンドによる外国人ニーズの増加など様々な社会的なグローバル化が影響している。
2000年代、インターナショナルスクールは全国に広まりを見せたが、多くの保護者ニーズは、英語を身につけて欲しいという「英語教育」のニーズが高かった。
▼ しかし、文部科学省の国際バカロレア200校計画が、インターナショナルスクール業界が本来持っている価値を保護者に再認識させた。
出典:文部科学省IB教育推進コンソーシアム
国内IB認定校等数は、(2019年7月24日時点)で146校。
それが「探究学習」だ。
2019年10月から実施された「保育無償化」。
編集部は、保育無償化の影響を調べるため、事前に各インターナショナルスクールへ聞き取り調査を進めていた。
同時にインターナショナルスクールの現場で多くの保護者から、国会審議時から、保育無償化にインターナショナルスクールが含まれるか、を質問を受けた。
▼ 東京都立川市にあるGSAインターナショナルスクールも新規問い合わせが増えたスクールのひとつだ。年度途中、さらに来年度から入園児もさらに増える。
2019年7月、8月から都内の各インターナショナルスクールには、「保育無償化で授業料がいくらになるのか」と具体的な相談が入っていた。
9月、市区町村の保育課などから通知を受けた保護者がインターナショナルスクールの見学、体験会が急増した。
こうして、保育無償化により「英語で探究的に学べる幼児教育機関」として「インターナショナルスクール」は、幼稚園、保育園、子ども園の従来の三本柱から、新たな乳幼児教育施設として第四の軸に台頭してきたのだ。
バブル崩壊後、失われた20年の中で、日本企業の国際競争力が落ち、世界大学ランキングで東京大学など日本の大学がアジアでランキングを下げるなかで、社会人になり家族を持ったのがインターナショナルスクールの保護者の年齢層だ。
グローバル化の波に直面してきた年代が家族を持った時に我が子に「英語で探究的に学ぶ必要性」を自然と考えるほど各都市にインターナショナルスクールは普及していた。
その一方でインターナショナルスクールの授業料は、年間150万から200万と高どまりしてきた。
▼ 海外からの駐在員も多様化し、江戸川区、江東区にはインド系インターナショナルスクールが急増している。
シンガポール、マレーシア、UAE、インドなど多国籍に印僑のインターナショナルスクールネットワークを作るグローバル・インディア・インターナショナルスクール。
インターナショナルスクールの授業料が年間150万から200万と高どまりした理由には、日本の幼児教育の制度が影響していた。
幼稚園、認可保育所などは、日本の教員資格、保育士資格を教員が教育・保育にあたることを前提にしており、海外で保育士資格を取得した外国人教員は、日本の保育士、教員資格とみなされない。
また、認可保育所、幼稚園のように施設費と運営費において補助の対象施設になることはほぼない。
そのため、開園するための土地、建物などの施設と設備なども自前で資金を用意し、返済する必要がある。
補助金を受けることがないインターナショナルスクールは、運営費の補助金を受けることもほとんどない。
そのためインターナショナルスクールの授業料は、年間200万から150万と高どまりしてきた。
そこに保育無償化により、要件を満たす保護者には、年間約45万円が給付されることになった。
インターナショナルスクール業界にとって、新たなマーケットが開いた瞬間だ。
今回の保育無償化の対象施設の範囲が、認可外保育施設も含まれたことで、認可外保育施設として運営されているインターナショナルスクールが保育無償化の対象となった。
多くのインターナショナルスクールでは、全額免除とならず授業料の一部がキャッシュバックされる。
一例として、これまで年間150万の授業料がかかった場合、年間約45万円の給付を家庭が受ける。
さらに市区町村独自にさらに上乗せするケースもある。
東京都八王子市は、毎月さらに2万円を上乗せする。
これまで乳幼児のインターナショナルスクールに通わす保護者の狙いは、「英語を学ぶ」が中心だった。
国際バカロレアなどのカリキュラムが代表のように、多くのインターナショナルスクールは、「探究的な学びを英語で学べる」手法を取り入れている。
日本の教育が2020年の文科省の学習指導要領の改定により「探究」がキーワードになる中で、「英語で探究的に学ぶ」インターナショナルスクールは、小学校の英語科目化の導入、大学入試改革を見据えた保護者の危機感によってさらに選ばれる幼児教育施設となった。
▼ 文部科学省の学習指導要領改定より。主体的で深い学びを推進している。
出典:文部科学省 平成29・30年改訂 学習指導要領、解説等
インターナショナルスクールに通う保護者に年間約45万の補助金が給付されても、年間授業料150万の一部だ。
無償化された幼稚園、保育園、こども園と授業料は高い。
しかし、無償化した幼稚園、保育園、こども園よりも100万円を払ってでもインターナショナルスクールに通わせる選択が増えている。
その背景に共働き世帯の増加による世帯所得の増加と少子化による一人当たりの教育費の増加、祖父母など孫への教育資金贈与などがある。
その中でも、インターナショナルスクールを積極的に通わせる層がいる。
それがパワーカップルだ。
▼ 英語学童保育のキッズデュオは、大規模なインターナショナルスクールを全国に8校を展開する。
幼児教育無償化の対象施設を前面に打ち出すキッズデュオインターナショナルスクール。
2020年4月に大阪府豊中市に関西初のインターナショナルスクールが開園する。
「パワーカップル」を夫婦の合計年収1500万円前後・以上とすると、37~120万世帯(全体の0.7~2.4%、共働き世帯の2.7~8.7%)となる。
(編集部:一部抜粋)出典:ニッセイ基礎研究所 「パワーカップル」世帯の動向(1)生活研究部 主任研究員 久我 尚子氏
乳幼児がいる20代後半、30代の子育て世代で世帯年収が1500万を超えるパワーカップルがインターナショナルスクールの中心所得層だった。
しかし、保育無償化により保護者に補助金が支給されることでパワーカップルの次の所得層が動きだした。
今回の保育無償化により、インターナショナルスクールは、所得層が広がり、子育て世代に選択肢を与えることになった。
インターナショナルスクールは、「英語」×「探究」の学びが軸となっており、探究学習、アクティブラーニングなど社会が求める学びのニーズ受け皿となった。
小学校の英語科化など0歳から6歳の未就学児童を抱える家庭ほど、保育無償化の給付を受け、インターナショナルスクールで学ぶことが我が子の将来のリスクヘッジとなる。
出典:ニッセイ基礎研究所 「パワーカップル」世帯の動向(1)生活研究部 主任研究員 久我 尚子氏
保育無償化でインターナショナルスクールで学ぶ裾野が広がるなかで、6万人の生徒と保護者が次に向かうのは、小学校だ。
▼ 関西国際学園は、国際バカロレア認定校としてバイリンガル、トリリンガルスクールとしてさくらインターナショナルスクールのブランドとともに全国展開する。
関西国際学園グループは、「さくらインターナショナルスクール」ブランドで全国にインターナショナルプリスクールを展開する。
2020年4月に日本橋に開園するさくらインターナショナルスクール日本橋校。
英語で探究的に学べる力を持った6万人の生徒。
日本国籍を持ち、日本に住んでいる日本人がインターナショナルスクールの小学部、中学部に通わすことは、帰国生や二重国籍など例外を除き、就学義務違反にあたる。
インターナショナルスクールの小学部、中学部に進学するには、6万人の生徒と保護者を待ち受ける。
その一方で、保育無償化でインターナショナルスクールの在園児と卒園児はさらに増えていく。
そして、小学校、中学校、高校、大学へと学びを続けていく。
その時、日本の小学校、中学校、高校、大学は、その保護者のグローバルな危機感とニーズ、生徒の能力を受け入れられるだろうか?
編集部は、進学コンサルティンをGSAコンサルティングとして実施しているが、義務教育違反を避けて、ITエンジニアが子供の教育のために海外の企業に転職し、子供を海外にインターナショナルスクールに通わす事例にも接することが増えてきた。
▼ マレーシアのマルボロカレッジは、英国本校の海外インターナショナルスクール分校だ。英国本校は、英国王室のキャサリン王妃が通っていたことでも有名だ。
保育無償化でブームとなっている「インターナショナルスクール」。
英語で探究的に学べる小学校の選択肢に窮屈さを感じた家庭が「親子で教育のために日本脱出」というシナリオも現実に起きているのだ。
保育無償化の恩恵を受けて「インターナショナルスクール」を選んだ幼児が卒園していく中心年齢は、2022年3月だ。
果たしてインターナショナルスクールを卒園する子供たちに果たして豊富な進路は用意されているだろうか。
インターナショナルスクールの「トリセツ」〜7分30秒で丸わかり〜 | By インターナショナルスクールタイムズ
https://istimes.net/articles/805インターナショナルスクールとはどんな学校なのか?どのように学ぶのか?どのような生徒が通っているのか?また、どのような保護者が通わせているのか?などインターナショナルスクールについて取材を通してまとめました。乳幼児が通うプリスクールではなくインターナショナルスクールについてのまとめです。
学費も年収も2倍に?日本人がインターナショナルスクールに通うメリットとは? | By インターナショナルスクールタイムズ
https://istimes.net/articles/782日本人がインターナショナルスクールに通うメリットとは?インターナショナルスクールタイムズの調べでは、学費は日本の学校に通わせるより2倍以上かかります。しかし、インターナショナルスクール卒業生の所得も2倍以上になっていると考えられます。
プリ・キンダー卒園児の英語力が恐ろしく落ちる「小1英語の崖」 | By インターナショナルスクールタイムズ
https://istimes.net/articles/851プリスクールやキンダーガーテンから小学校に進学して突き当たる英語力の事実。それが「小1英語の崖」です。英語で学ぶ環境から、日本語で学ぶ環境に変化することで英語力がゴールデンウィーク明けから一気に落ちます。プリ・キンダーの卒園児がどのように英語力対策をすれば良いのか。その点を含めまとめました。2019年7月2日加筆
この記事の記者
インターナショナルスクールタイムズの編集長として、執筆しながら国際教育評論家として、NHK、日本経済新聞やフジテレビ ホンマでっかTV、東洋経済、プレジデント、日本テレビ、TOKYO FMなど各メディアにコメント及びインタビューが掲載されています。
プリスクールの元経営者であり、都内の幼小中の教育課程のあるインターナショナルスクールの共同オーナーの一人です。
国際バカロレア候補校のインターナショナルスクールの共同オーナーのため国際バカロレアの教員向けPYPの研修を修了しています。
待機児童の解消の政策として企業主導型保育、保育無償化と手を打つ内閣府。
保育無償化の施設に認可外保育施設が対象となったため、多くのインターナショナルスクールが対象園となった。(一部、例外がある)
保育無償化の一部が、結果的に英語で探究的に学べるインターナショナルスクールにブームの火付け役になった。
出典:内閣部